| 月姫ショートストーリー
彼女がスプーンでカレーをすくい口に入れた時にそう洩らした。 「美味しいですか?」 シエルがニコニコ微笑みながら話し掛けてきた。隣りを見るとネコアルクが「みょっみゃっもみー」と、 「ええっ、とても美味しいですよ」 水を一口飲んでから彼女は言った。 「そうですかそうですか。美味しいですか。成功です。カリー」 まさに満面の笑みを浮かべてシエルはカリーのほうを見る。あの怪しい黄色い全身タイツ姿にコックの 「ほんと、嬉しいですわ。喜んでいただいて」 カリーのおねぇ言葉を聞いて確信した。絶対に屈辱だ。 「ふっふっふっ。秋葉さんもカレーに屈服しました。これならば琥珀さんも一撃です」 シエルの怪しい含み笑いに、彼女──秋葉は眉をひそめた。 「翡翠さん。琥珀さんを呼んで来てくれませんか。琥珀さんにもこの美味しいカレーを食べさせてあげ シエルが翡翠のほうに振り向いて言う。翡翠は普段からあまり感情を表に出す事は無い。特に食事の時 「はい」 丁度、一皿食べた翡翠はそう言うと食堂から出て行き琥珀の部屋に向かった。
「翡翠ちゃん。おいしかったですか」 静かに琥珀は聞いてみる。 「わたしの口からはなんとも……ただ、秋葉さまやレンさまは気に入っていたみたいです。もちろん、ア 翡翠の言葉に琥珀は「そう……」と呟いただけだった。
「シエルー、おかわりー」 訂正。アルクェイドはまだ食べていた。 「おいしいですね」 琥珀は一言だけ言う。シエルとカリーは「勝った」という顔になる。 「これを作ったのはカリーさんですよね」 大喜びする二人に琥珀は話し掛ける。静かに。 「ええっ、そうよ。とてもおいしいでしょう。苦労したのよ」 ニコニコと満足そうな笑みでカリーは答える。 「これをもし売るとしたら一皿はいくらぐらいになります。五千円ですか。六千円ですか」 「そうねー。大体、八千円ぐらいの値をつけないと元は取れないわねー。それだけ厳選した素材とこっ カリーの言葉に琥珀は満足そうにうなずいて。 「そうですか。やはりそれぐらいしますよね」 「クールトーちゃん」 二代目ネロカオスから貰った遠野家の番犬(狼)クールトーがすぐに食堂に入ってくる。 「さー、クールトーちゃん。お食事ですよ。おいしそうでしょう」 クールトーに食べさせた。 「犬のえさ。あたしのカレーが犬のエサ」 カリーは屈辱のあまり悶絶する。 「あら、クールトーちゃんは犬ではなく狼ですよ。そこを間違えないで下さい」 琥珀の言葉にカリーはキレタ。 「うがー」 一声あげると琥珀に飛び掛る。 「オクレ兄さーん。激ラブー」 訳の分からない事を叫びながらぴくぴくと痙攣する。 「ゴチソウさまでした」 琥珀はそう言うと席から立ち上がる。 「琥珀さん」 慌ててカリーを介抱するシエルが琥珀を呼び止める。 「確かにカリーの行動は許される物ではありません。一般人である琥珀さんに手をかけようとしたのです やや、強い口調で非難した。 「誤解しないで下さい。わたしはそのカレーを美味しいと思ってますよ。だからこそ駄目なんです」 それだけいうと食堂から出て行き自室に戻った。 「シエルー。おかわりー」 静まりかえった食堂でアルクェイドの能天気な声だけが響いた。
「あらー。レンちゃんありがとうございます。 そういって琥珀はレンを招き入れる。 「ふふっ、おいしいです」 おにぎりを食べながら琥珀は呟く。それをレンはじっと見つめる。 「レンちゃんも少し食べてみます」 その視線に気付いた琥珀がレンにおにぎりを差し出す。 琥珀の作る物の方がおいしいの。 と、琥珀に伝えた。 「ふふっ、そうですね。おにぎりを握る力が強すぎて中が潰れてますし、塩加減も甘いです。味噌汁も 優しい笑顔で琥珀は言った。 琥珀にききたいの。どうしてカレーを食べなかったの。あんなにおいしかったのに。 レンの問いかけに琥珀は少しため息をついて。 「そうですね。確かにあのカレーは美味しかったですよ。それだけではありません。たとえばレンちゃん 虚ろな笑みで琥珀は語った。 秋葉さまの料理がおいしくて、カリーさんのは駄目。どうして? レンの再度の問いかけに琥珀は、 「さあー。どうしてでしょうね。でも、一つ言えるのは秋葉様の料理こそが原点だという事でしょうね」 琥珀はそういって、いとおしそうにおにぎりを食べ始めた。
まだ苦しいのか、カリーはソファーにグッダリと座って濡れタオルで頭を冷やしていた。 「琥珀の薬は真祖であるわたしにも効くもんね。ただの死徒であるあんたが抵抗できるわけ無いじゃん」 アルクェイドはお茶をすすりながらカリーをからかった。 「アルクェイドは琥珀さんがあの場で薬を用意していたのに気づいていたのか」 志貴の問いかけにアルクェイドは、 「うん。袖元に力が集中していたし、目の動き、間合いから、カリーを挑発して迎撃しようとするのはあり あーぱーのようでいて、こと戦闘に関しては確かな目をもつ。だからこそ、あの場で何もしなかったの 「それにしても、あのカレーでも駄目だなんて。一体どうしたらいいのでしょう」 シエルは憂鬱そうに語る。 「そうですわね。あのカレーはあたしが最高の技術と厳選した素材を組み合わせた究極のカレーです。 カリーが自信を持って言った。 「そうかなー。確かにおいしかったけど、志貴の料理のほうがずっとおいしいよ」 アルクェイドの何気ない言葉にシエルは、 「十杯以上もお代わりしておいて何を言うのです。せっかく、余ったらアパートに持って帰ろうとしたのに と図々しい反論をした。 「うーん、なんて言うのかな。凄いおいしいのは認めるけど、‘凄い美味しいだろ’という気負いが見える と、アルクェイドは惚気やがった。 「ははっ、そう言ってくれると嬉しいよ」 志貴もなんて言ったらいいか分からず、曖昧に笑う。 「だから、今度カレーを作って。志貴のほうが絶対に美味しいって見せ付けてやって」 あのー、二人の視線が怖いのでこれぐらいにしませんかアルクェイドさん。 「と、とにかくだな、問題は琥珀さんの事だ。どうするつもりですシエル先輩」 志貴が強引に話題を変える。シエルは志貴の問いかけに少し考える。 「そうですねー。あのカレーでも駄目となると、正直、途方にくれてしまいます。一体、何が駄目なのか そうだよな。確かにそうだよな。 「ふっふっふっ。あたしに秘策があります」 復活したカリーがそう告げる。 「琥珀という輩にはもう正攻法は通用しません。ならば、少々強引に行くべきです。そう、これは最早、 激しく興奮してカリーは言った。
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| ユウヒツさんから頂きました、「琥珀の歌 カレーライスの歌」 第二話です。 むぅ……(驚 こてこてのギャグ路線かと思いきや。予想を大き く裏切るシリアスっぷりですよ。琥珀のカレーライスに対する、何 かの決意。それは彼女にとって非常に大切で、決して譲れない 物のようです。 くぅ、早く第三話が読みたくなります。楽しみですね。 ユウヒツさん、どうもありがとうございました。 |