神原駿河といえば学校内では知らないものなどいなかった――いやまあ故あってバスケ部を中途退部してしまったので便宜上過去形にしてみたが、帰宅部になった今でもかわらず学校内どころか全国区でも有名人なことにかわりはなかった。
戦場ヶ原ひたぎはというとさすがに神原のように全国区とは言わなくても、学年トップクラスの成績を持ち、事実はさておき周囲からは物静かな優等生と誤解されているというか見事な擬態で誤解をさせているので、学校内で言えば有名人であることに変わりはない。
そしてこの僕、阿良々木暦の評価はと言うと多少更正したとはいえ以前落ちこぼれであることは変わりなく、従って僕は全くもって有名人ではない。まあなんだか教師のみなさんにとっては戦場ヶ原と神原、それに加えて直江津高校随一どころか全国でもトップを狙える頭脳を持つ羽川を堕落させた問題児として名を馳せていると言う噂も聞いたが、そこは僕の精神衛生上スルーさせて貰おう。
とにかくそんな有名人の女子コンビと落ちこぼれの僕という、端から見たら釣り合いの取れないメンツかも知れないが、当人同士の付き合いに端からの評価なんて関係はない。気にする人もいるかも知れないが、少なくとも僕たちは――特に戦場ヶ原と神原は全く気にしないだろう。そして二人が気にしないというのに僕だけ一人で気にしているというのもおかしな話だし、とにかくそんなわけで気にしない。
そんなヴァルハラコンビと僕は紆余曲折あった末に和解というか平たく言えば仲良くなったわけであり、三人揃って遊ぶことだってなくはない。
と、まあそんなわけで妹から「お兄ちゃんって友達少ないんだね」と憐れまれる事もある僕にしては珍しく、今回の話は友達同士の何てことのない一日の話である。
「阿良々木先輩」
ある日曜日、神原の家で過ごしていた僕に神原が呼びかけてきた。
「ん?」
そして僕は今まで読んでいた本から目を上げる。
今さら言うことでもないとは思うが神原の部屋は普段ちょっと尋常じゃないぐらい散らかっていて定期的に僕が掃除に通っているわけだが、その中にはジャンルを問わず割と色々な本があったりするので僕はたまにこうやって神原の部屋で読書に勤しんでいたりするのである。
まあ、好きな本を読むためには事前に掃除の時に確保しておいた上に少し隙を見せるとBL小説を読ませようとする神原を牽制したりしなければいけないわけだが。
とにかくそんなわけで神原の方を見ると、相変わらず明るく朗らかと言う言葉がこれ以上似合う表情はないという感じで笑い、
「阿良々木先輩の寝汗が染みこんだブルマーとスクール水着はいつもらえるのだ?」
「そんな予定はねえよ!」
とんでもないことをほざきやがったので思わず叫んだけど、そんなことで揺るぐような神原駿河ではなかった。
「むぅ、さすが阿良々木先輩だ。私も焦らしプレイは好きな方だが、そろそろ我慢しきれなくなって阿良々木先輩の服を今すぐ剥いでブルマーとスクール水着を剥ぎ取ってしまいそうだ」
「なんで俺が今着ているみたいになってるんだよ! 着てねぇよ!」
ちなみにどこにあるのかというともちろん自分の部屋の中であり、細かい場所については最上級の極秘事項である。あれが見つかるぐらいならエロ本の所在がバレた方が百倍マシというかあの妹達にバレたりした時にどうなるかは考えたくない。
「何故だ! 私はもう既にブルマーだというのに!」
「『だというのに』じゃねえ!」
相変わらずろくでもないことを叫びつつ跳ね上がるように立ち上がった神原がスカートを恐らく人類史上類をみないであろうほど堂々とめくりあげると、確かにスカートの下はいつもの黒のスパッツではなく赤いブルマーだった。
「阿良々木先輩の手元にある千石ちゃんに貸したブルマーは紺だったからな。そろそろ別な色のものも楽しみたいのではないかと思い、赤ブルマーを着用しておいた」
「何を気の利いた後輩風なこと言ってるんだよ! 言っておくけどその気遣いは全くもって的外れだからな!」
「……なるほど。阿良々木先輩はブルマーよりスパッツ派であったか」
「違う!」
そんな、俺と神原の間では割と良くあるろくでもないやりとりを楽しんでいると――確かに内容的にはどうかと思うが神原とのこういう会話はなんだかんだ言っても楽しいのでついつい夢中になっていた。
そしてそれはどうやら神原も同じらしく、こういう会話は本当に日常的なことなんだが。
「あらあら二人ともはしゃいじゃって。まあ神原の露出癖についてはある意味病気だとは思っているし、下着ではなくブルマーやスパッツを見せびらかすぐらいで目くじら立てるつもりはないんだけど」
そう、今日はいつもと日常とは一つ違っていたのだ。
「神原も阿良々木くんも、自分が敬愛する先輩と愛して止まない恋人を放置して随分楽しそうな話をしているじゃない」
今日この日、特になんということはない日曜日なんだけどとにかく今日は、ある意味特別な日だったのだ。
「さあ、とりあえずその辺の愉快そうな話を一つ残らず洗いざらいキリキリと喋りなさいな」
あの猿の手の事件でヴァルハラコンビが和解して以来、初めて戦場ヶ原ひたぎが神原駿河の家を訪問した記念すべき日だったのだ。
【続く】
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