■ 真冬の夢 ■




ユウヒツ



 まどろみと日常




 パゼットが住処としているあの双子館にもけだるい朝がやってきた。まどろみの中で疲れきった体をゆだねる。起きなければならない。いまだ、職には付いていない。毎日が日曜日のように自由である。されど、矜持は許さない。規則正しい生活を送る。人は堕落しやすい。ゆえに守らなければならない。

 でも、今日ぐらいは──

 ゆるゆると温水に浸かったような柔らかな眠りの中、パゼットはベットの中で身じろぎする。

 昨夜の夜は大騒動だった。発端はなんだったのだろうか。凛のずぼらさが原因か? 士郎の鈍感さか。それとも──カレンの不注意か。


 魔法少女マジカルカレン────爆誕。


 凛の広い家の掃除を押し付けられた士郎は助っ人としてカレンとパゼット。それにアインツベルンのメイド二人に求めた。前回頼んだ桜とライダー、それにセイバーは色々と所用があり頼む事が出来なかったからだ。

 それが悲劇を呼んだのかもしれない。

 掃除の途中にカレンはとある部屋でおもちゃのような杖を拾った。そう、小さな子供が遊ぶような魔法少女風の杖を。
 あの悲劇(喜劇)の後、凛は深く深く宝箱の中に封印した。そのはずだった。
 だが、カレンは手にした。間の悪い事に壊れかけたカレンの体はいつも包帯を巻いてある。かすかな血が杖に付いた。

 もう語ることは少ない。「んー、色々と条件はありますが、大サービスです。三人目の魔法少女の契約完了です」

 というわけで白き衣装を纏った至上最凶極悪な正義の魔法少女が光臨したのだ。

 その駆逐には熾烈を極めた。とにもかくにもでたらめな強さなのだから。さらには二人の従者(ランサーと子ギル)も召抱えていたし。
 全サーヴァントを巻き込んだ大騒動となった。
 他にもいろんなことがあった。仕事につけず翻弄の日々。どこに行っても断られる。景気回復の兆しは嘘なのか。と嘆いたり。
 黒いセイバーも召喚されて、セイバーとのいさかいに巻き込まれたり(本気でばかばかしい理由だった)
 キャスターの陰謀で十三歳の少女にされたり、
 別の街でツインテールの少女の吸血鬼と一緒に封印指定を追いかけたり、
 とにもかくにもばたばたとあわただしい日常が過ぎていた。

 日常。

 穏やかとは程遠いがパゼットは手に入れた。毎日が充実している。確かに不平不満は多々ある。就職の事とか──ランサーの事とか。それでも毎日は輝いているように見える。
 幼少の頃。魔術協会にいた頃。封印指定を追いかけていた頃。あの頃とは比べ物にならない。まあ、充実というより濃ゆい日々ともいえるが。

 そんな中、眠りというまどろみは心安らぐ唯一のひと時だ。柔らかいベットの中で眠る。ふかふかの枕に頭を預けて眠りに浸る。
 
 んっ、

 少し身じろぎをした。掛け布団が少しめくれる。白いワイシャツに包まれた肩が見える。昨日はシャワーを浴びた後、ワイシャツをそのまま素肌に引っ掛けてベットに倒れこんだ。
 冬木市はその名に反して気候は温暖ですごしやすい。冬でも結構温かい。すでに日は昇っている。さすがに陽気とはいえないが柔らかな日差しが窓から射している。

 んふっ。

 疲れからだろうか、それとも暖かなまどろみの所為か、パゼットは自分のたゆんとした胸に手をやった。
 ひたすら期待あげ磨き上げられた肉体。それでも女性的な柔らかな曲線は崩れていない。むしろ、増している。女性は元々、男性に比べて比率として肉は多い。パゼットは極限まで絞られ鍛えられても女性としてのしなやかさは失われていない。薬で作った不自然な筋肉は存在しない。ただ、ひたすら魅力的だ。
 指は動く。乱暴にワイシャツの上から自分の乳房を掴む。膨らんだ山に指を押し込めばどこまでも沈んでいく。這う指にあわせて山の形は変わる。押し込まれても弾き返し、指が無くなればたちまち元に戻る。

 ……んっ、

 軽く顔が上気する。うなじが少し主に染まる。白い肌に赤みがはしる。指はただ胸を嬲る。始めはゆっくり。だんだん早く強く。足は何度も組み返される。胸を揉む動きにあわせてばたばた動く。

 ──んぁ。

 口から漏れる。軽くかすかに。息と共に漏れていく。無意識に。しかし、熱はこもる。もう一度。さらに熱はこもり大きくなる。指は胸全体から先端に集中する。薄い布地のワイシャツでは隠しきれない。むしろ、より強調される。先端は固く尖りはじめている。

 んぅん。

 頭はいやいやとかぶりを振る。だけど、止まらない。人差し指と親指で乳首を摘む捻る。そのたびに甲高く声が漏れる。疼きが広がる。じんわりとした電気のようなのが流れる。 快楽という電流が胸からもれて流れていく。股間に。

 んぅぅ、

 下はショーツ一枚。子供ぽいかもしれないがパゼットは縞々のショーツを好む。今も黒味を帯びた青と白のしましま模様。太ももをすり合わせる。何かに我慢するかのように。

 んはぁー、

 熱い熱を帯びた息を吐き出した。長く。何度も胸を揉むうちにワイシャツのボタンは外され隆起は半分以上露わになっている。布越しに肉を掴む。布越しに乳首を摘む。汗がこぼれる。上気した肌は布を濡らす。湿られれて張り付く。這う指と布地と肉から摩擦が生まれる。障害ではない。むしろ快楽を助長する道具だ。

 んぉん。

 肩が震え、息が漏れる。右手は下のほうへと進む。反対に左手は上がる。親指をぺろりと舐める。人差し指も舐める。右手の方の人差し指はショーツの中心を付く。くちゅりと水音がする。しまパンを上からカリカリと引っかくように撫でる。

 あっ、

 声は艶を帯びて確かにでた。しまパンを撫でるたびに肩が震え、頭が身じろぎし、声が漏れる。抑えるために左手の親指を口に含む。口の中に一杯ツバをためて指がふやけるほどしゃぶる。

 あんっ、

 頬が紅にそまる。うっすらと。目は閉じたままだ。しまパンをいじる指は二本に増えた。くちゅくちゅと音がする。撫で回す先に豆がある。指の腹で軽く撫でる。痛いくらい左手の親指を噛んで耐える。体を丸めてしまう。

 アンリ……


 目を開ける。いまだ焦点は定まらぬ。されど確かにかすかに呟いた。自分がここに居られる理由を。



「あなたに聞きたい事があります。シオンさんはどこに居るのでしょう? あっ、申し遅れましたね。私は元封印指定執行者のパゼット──」
「封印指定? まさか、シオンを封印する気なの?」
「落ち着いてください。わたしはただ、話を──やれやれ。とりあえず、誤解を解く前におとなしくさせないとダメのようですね」



「……また、ダメでした。はあー。どうして、私はこう不器用なのでしょうね」
 腕力ばかり鍛えてある。ならば、それを活かせばいい。というわけで引越し業者や本屋の店員などのアルバイトに付いたのだが──結果は見事に玉砕。速攻でクビを申し付けられた。
「幸い、臨時収入があったので、多少は持つと思いますが──」
 ちなみに臨時収入というのはアームレスリングで得た物。軽く数百万円を手に入れている。
「そういえば、おかしなこと言ってましたね。『お前などキングに比べればまだまだだと』さて、そのキングというのは一体誰なんでしょう?」
 はばかりながら身体能力には自信はある。しかし、あの大会においてパゼットより腕力のある人物が居るという。その人物が大会に出場しておればたやすく優勝は出来なかったと。さて、興味は湧く。
「ちょいとごめんよ、そこ退いてくれない?」
 道端で考え事ふけっていたパゼットに注意の言葉が届く。振り向くとビール瓶の大瓶ケースを二つ持った目の細い女性が路地裏から出ようとしている。ちょうどパゼットが大通りに出るのをふさぐ形となっている。
「すいません」
 慌てて、飛びのくと、
「いいの、いいの」
 目の細い女性はそのまま大通りに停車していたバンにビール瓶ケースを積み込み、中身の入ったビール瓶ケースを二つ抱えあげた。
「ほう」
 パゼットは感心する。これがパゼットとアームレスリングキング──ネコさんとの出会いである。



 鏡の中に見たこともない少女が映っていた。儚く優しく着飾っている。とても綺麗だ。年齢は十三歳から十四歳程度か。いまだ少女の域だが、だんだんと女へと脱皮していく。そんなあいまいな境目にいる。長い髪はリボンでくくりまとめて結い上げられている。フリルとレースが入ったスカート。パゼットは一度もはいた事は無い。
「──これが私ですか」
 鏡の中の少女は呟く。
「ええ、そうよ。これがもう一つのあなた。心の中に閉じ込めていた存在よ」
 にっこりとキャスターは言った。


「ほほう、お前にもここの良さが分かるのか」
 じろりとした視線をブラック・セイバーは向けてきた。
「ええ、早いというのが本当にすばらしいと思います。私も結構愛用して通ってます」
 パゼットは頷いてどんぶりをかかえて一気にかきこむ。ブラック・セイバーも同じく掻き込んでいる。麗しき美女が二人。並んでどんぶりをかきこむサマはこっけいだが絵になるのも事実。
「やはり、こういうのは一気に食べるに限る」
 もきゅもきゅしながらブラック・セイバーは呟いた。
「上品に時間をかけて一口一口? 日が暮れてしまうわ」
「同感です。食事は手早くスピーディーで無いと」
「ふふっ、ところでマ○○のハンバーガーはどうだ?」
「あそこもよく行きますね。前に○スに行って失敗しました。来るのに時間がかかりすぎます」
「そうだな。もっとも、お上品なセイバーはアッチの方がお好みのようだが」
 ブラック・セイバーは口をゆがませて笑う。


 悪夢とは覚めてしまえばどうという事無いものかもしれない。夢とはうつつ。幻なのだから。では、実体化した悪夢に関してはどう対処すればいいのか。ビルの屋上に白い衣装を纏った聖女が踊る。赤い聖骸布を纏い踊る。
「さあ、踊りなさい。そう、この世は偽善に満ちています。幸せなひと時を甘受する。なんとすばらしい事でしょう。薄い氷のようなものとしても人はすがりつくものです。皮を剥げば生々しい肉が見えたとしても。外気にさられされて腐りはてたとしても、いずれは再生するものです。ああ、私は愛と聖を伝道する魔法少女。皆、幸せになりなさい」
 クラリとめまいがする。目の前のヒラヒラしつつ露出度の高い衣装を纏った少女に何をすればいいのだろう。言っている事が破綻していると気づいているのだろうか。
「キャー、その通りです。さあ、ドンドンやっちゃいましょう」
 ……たぶん、気づいてないのだろう。
「まさに封印指定に値する代物ですね」
 今まで、さまざまな魔導具を見てきたが、これほど危険に満ちた代物は見たことない。パゼットは皮手袋をキュッとはめて、目の前の魔法少女に向かって歩を進めた。



 こみ上げては消えるのはあれから歩んだ日々。日常というのには程遠いかもしれない。けれど大切な日々。
 ここに来る前の自分はどうだったのだろうか。分からない。自分という存在は強固でなかった。なぜなら自ら歩むというのは無かったのだから。
 苦労はしている。もしかしたら前よりも大変かも知れない。

 けれど……

 指は蠢く。すでに右手はしまパンの中に入り込んでいる。左手の指の一本一本をねぶりしゃぶる。もう、二度と会うことはない。あったとしてもそれは違う存在だ。彼は無なのだから。
 自分にとって聖杯戦争とはなんだったのだろうか。もし、ランサーと駆け巡ることが出来たら華麗で華々しく活躍できたかもしれない。
 それでも、
 それでも、また、聖杯戦争が起きたとしたら。
 彼と一緒に駆け巡りたいというのはおかしい事だろうか。
 
 アベンジャー。

 復讐という意味だ。だが、彼は何に復讐したというのだろうか。粗野で粗雑で粗暴でありながらも優しさに満ちていた。ああ、悪と正義の境目。それは本当に知っているのか。この世の全ての悪というのは言い換えれば全てを集めた善に繋がらないのか。
 思考は混濁している。パゼットは指を動かし慰める。前へと進んでいる。されど思い出に浸ることぐらいはいいのではないか。夢うつつな時ぐらい。

 左手の親指の爪を噛み切る。右手の中指が深く食い込む。激しい快楽と共に目覚める。夢のひと時は終わった。けだるい快楽に身を任せていてもよかった。けど、
「ふう、シャワーでも浴びますか」
 何事も無かったかのように起き上がってバスルームに向かう。熱いお湯を浴びると覚醒する。霧の谷間のような思考はクリアになる。浴び終わったらキッチンへと向かう。
 簡単な朝食を用意する。パンを焼いてバターを塗り、ハムと卵を焼いてハムエッグを作る。後は牛乳と野菜スティック。食べ終えると身だしなみを整え出かける。今日も面接がある。その結果がどうなるかわからない。部屋を出る。軽く振り向く。
「行って来ますよ」
 そう言って出て行く。最後の視線の先には一枚のパズルの絵。シンプルな白い花の絵。それだけだ。

 まどろみに浸ることはない。それが彼との約束なのだから。





おわり。