白と黒の邂逅




「わたしはこれから眠り続けるけど、その間に志貴の夢を見る。
 貴方と過ごした時間はすごく楽しかった。だから、その時の夢をずっと見るの」

「なんの意味もないけど、それはきっと、きっとすごく楽しいよ。
 だからね、志貴。わたしは幸せだよ。志貴はちゃんと、わたしに幸せをくれたんだから」

「わたし、志貴のことを愛してる。正直で、ぼんやりしてて、わたしにだけうるさくて、
 前向きだった貴方を愛してる。だから、お願い。これからもずっと、そのままで生きていってね」


 わたしはそうして眠りについた。
 償いようが無い罪を犯した城で。
 そこで約束した通りに、わたしは、わたしが愛した志貴の夢を見る。


 志貴と一緒に街を歩く夢。
 公園を散歩する夢。
 映画というものを観る夢。
 一緒に食事をする夢。


 もう叶う事のないイフを夢に見る。
 そこにだけは救いがあるから。
 そこでだけは志貴と一緒にいられるから。


 だからこれはイフの夢。
 もしもこうだったらという、ありえない夢想。


 志貴とケンカをする夢。
 志貴と仲直りをする夢。
 志貴の寝顔を見る夢。
 志貴に寝顔を見られる夢。


 こうであったらという夢。
 こうでありたいという夢。
 でも、実際には決して起こらない夢。


 “アルクェイド―――”


 だからこれはわたしの夢。
 志貴がわたしを起こしにくるというイフ。
 実際には起こるはずのない夢の産物。


 “アルクェイド―――”


 夢の中の志貴がわたしを呼び続ける。
 起きろと。目を覚ませと。
 でもわたしは起きようとしない。
 目を開けてそこに志貴がいなかったら、きっとわたしは狂ってしまうから。


 “アルクェイド―――”


 志貴はわたしを起こそうとするのをやめない。
 優しい声で、わたしが起きるのを待ち続ける。

 最初は嬉しかった。
 その優しい声にわたしは幸せになった。

 だからこそわたしは恐怖する。
 起きて目を開けたときに志貴がいないことに。
 やめて欲しかった。
 放っておいて欲しかった。
 志貴ともう会えないことを掘り起こされたみたいだった。


 “アルクェイド―――”


 声は決してやまない。
 優しくて、それでいて強い意志を感じさせる声。
 いつまでも目覚めないわたしに、諦めず、絶えることなくかけ続けられる声。

 頬に暖かい感触が伝わる。
 眠りについてから一度も感じなかった他者のぬくもり。
 ありえるはずのない感覚に、わたしは怖々と目を開ける。


「アルクェイド―――」


 目を開けたその先に、わたしが愛した彼がいた。
 正直で、ぼんやりしてて、わたしにだけうるさくて、前向きだった彼。
 わたしに意味の無い事を楽しむということを教えてくれた人。
 わたしを幸せにしてくれた志貴。
 その手が、わたしの頬を撫でていた。

「し・・・・・・き・・・?」

 目の前の志貴に手を伸ばす。
 夢でないことを確かめるために。
 それが現実であることを感じるために。

 志貴の手がわたしの手を優しく掴む。
 自分のすっかり大人びた顔へと引き寄せて、その頬へと触らせる。


「―――おはよう、アルクェイド」


 “―――ああ・・・・・・志貴なんだ・・・”


 ホントに、ホントに志貴なんだ。
 ずっと、ずっと夢に見続けた、あの志貴なんだ。
 嬉しくて、とても嬉しくて。
 気付いたら、わたしは志貴の腕に抱かれていた。

 優しく、硝子細工を扱うかのような抱擁。
 でも決してわたしを放さないという決意に満ちた抱擁。

 それにどうしようもない心地よさを感じながら、
 わたしは静かに口にする。
 あの日の朝、言う事ができなかったあの言葉を。
 これからも一緒に在り続ける願いを込めて。


「―――うん・・・・・・おはよう」



 ―――白い吸血姫は夢を見た。
    愛する男と共に在る事を。

    黒き殺人貴は追い求めた。
    愛する女の眠る地を。


    蒼い月が昇る夜。
    白と黒の恋人は邂逅を果たす。

    白い月光の差す地にて
    彼らは永久の愛を誓うだろう。


    彼らに、月の祝福があらんことを―――
    


Fin




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あとがき

 お初にお目にかかります。
 マッチョです。

 アルクェイドのトゥルーED後。
 眠りについた彼女の心情に挑戦してみました。
 アルクェイドと別れた後の志貴くんの様子からして、
 彼女を諦めるとは思えなかったので、こういう展開もあるのではと。
 そう考えて書かせてもらいました。

 短い文章でしたが、アルクェイドの心情が皆さんにうまく伝われば幸いです。

 駄文ではありましたが、以上であとがきとさせていただきます。
 ご拝読ありがとうございました。


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